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メールマガジン
[Vol.060 2022年6⽉号]
Mail Magazine

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大失敗からの逆転勝利~SFC物語~
(CPIカンパニー 事業推進部 主席部員 宮澤 賢一郎)

みなさんは、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)にどのようなイメージをお持ちでしょうか?
日本では最近になってから装置が普及したこともあり新しい技術のように感じますが、最初のSFC分離例報告は1962年、Klesperらによるものとされています。当時はまだHPLCの基礎が確立していなかったといいますから、実はHPLCよりも長い歴史があるんですね。

初期のSFCでは比較的臨界点(圧力、温度)の低い化合物を移動相に採用し、カラムオーブンと圧力弁または抵抗管で温度と圧力を上げ、移動相を超臨界にしていました。圧力弁などで圧力を調節させると移動相密度がそれに応じて変化するので、それを利用して分析化合物の保持制御を行うことができます。固定相は圧力損失の小さなキャピラリーカラムやオープンチューブラーカラムの形式で用いられました。超臨界流体の拡散係数は液体より桁違いに大きく、カラム効率(理論段数)の向上に寄与すること、また密度が気体と液体の中間であることから、SFCはガスクロマトグラフィーと液体クロマトグラフィーの利点を兼ね備えた画期的な技法ということで注目を浴びたのです。

ところが、実際にSFCを導入したユーザーは様々な問題を目の当たりにします。たとえば移動相成分は臨界点の低いCO2やハロゲン化炭化水素、アンモニアなどが使われましたが、これらは極性が低く、高極性サンプルの分析に不向きでした。しかも当時の技術水準では移動相流量と圧力の双方を精密に制御するのが難しく、分析再現性にも疑問符が付いてしまいます。そうこうしているうち高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の技術開発が進み、ユーザーの目はそちらに移っていきます。
SFCは期待外れの扱い難い技術とみなされ、1980年代から1990年代にかけて評価が低迷します。しかしその間にもクロマト機器の技術開発は進んでいき、(とくにHPLCの発展と普及によって、)高圧に耐える性能に優れたプランジャーポンプやパックドカラム、UV検出器などが市販されるようになっていきます。これらのデバイスをSFCに適用し、なおかつ移動相の極性問題を解決するため主成分のCO2に有機溶媒(モディファイア)を添加するという方法が考案されました。これにより分析適用範囲を一気に広げることが可能になります。保持は圧力以外にモディファイアの組成によっても制御可能になり、よりダイナミックに動かせるようになります。圧力調整弁および調整機構も進化し、ポンプと合わせて精度よく流速と圧力をコントロールすることで、課題であった分析再現性も改善します。臨界点の高い有機溶媒が入ることで、移動相は超臨界領域にはほぼ入らなくなりますが、拡散性は依然高く、また粘度が低いため高流速で操作しやすくなります。さらには、パックドカラムはキャピラリーと比べて大口径化しやすいので、分取クロマトへの適用も容易です。
欠点を排して生まれ変わったSFCに目を付けたのは欧米の製薬企業でした。彼らは、光学活性な医薬低分子中間体や候補化合物をキラルHPLCによって純度分析あるいは分取していたのですが、これをSFCにコンバートするといろいろ都合が良いことに気づいたのです。スループット性にすぐれるSFCはスピードを求められる医薬研究開発現場にうってつけであり、高効率かつ環境にやさしい省溶媒プロセスとしても歓迎を受けることになります。医薬開発分野での再評価を皮切りに、質量分析や超臨界抽出技術との組み合わせなどを通じ、農薬・ポリマー・天然物・生理活性物質などの分析に幅広く適用されるようになっています。
SFCが見直されるきっかけとなったキラル分析・分取について、実際の分離例を交えご紹介いたします。
粘度の低い液化CO2を移動相主成分とするSFCでは、HPLCの数倍の流速で移動相を流すことが可能となります。一般的にHPLCの3倍の流速が出せると思っていただいて良いと思います。当然、その分スループットが向上します。クロマト法の場合、分析時間とプロセス(分取)時間のどちらも短縮が見込めることになります。

じゃばら

また、液化CO2はほとんどの有機溶媒と相溶性がありますので、さまざまな溶媒を「モディファイア」(コソルベントとも)として添加することで移動相組成のバリエーションを取ることが可能です。モディファイア組成もほとんどの場合0~100%の範囲で使用可能です。
(残念ながら水だけは相性が悪く、添加可能なのはほんの数%程度となります)
最もポピュラーなモディファイア溶媒はメタノールですが、他のアルコール類やアセトニトリルなども適用可能です。複数の溶媒を混合し、それぞれの溶媒特性の良いとこ取りを試してみるのも良いでしょう。特に、多糖誘導体系キラルカラムを用いたキラルSFCではアセトニトリル/エタノールなどの極性の異なる溶媒を混合したモディファイアを採用することにより分離の改善するケースが確認されています。

じゃばら
じゃばら

どうにか手っ取り早く純度の高い化合物サンプルを入手したいという方には、SFCは魅力的なツールだと思います。つまり…

  • 1) 1回当たりの分析時間が短い ⇒ 分取クロマトの条件出しがすぐにできる
  • 2) 多くの有機溶媒が任意割合で液化CO2と混合OK ⇒ 分離条件の選択肢が広い
  • 3) クロマト系外でCO2は気化分離する ⇒ 分取フラクション容量が少ない

…というように、SFCは分取に有利な要素をいくつか持っています。HPLC法を用いた分取と比較すると、ざっくり、時間は1/3で溶媒消費は半分、くらいのイメージでも間違いではないと個人的には感じています。

SFCはまだまだ応用範囲を広げるポテンシャルを秘めた手法だと思っています。国内外の優れた研究者・技術者の皆さんに幅広く利用していただき、いっそう便利で有用な技術として世界に浸透していくことを願っております。

OD錠ご存知ですか?添加剤のお話
(CPIカンパニー ライフサイエンス製品営業部 熊本 いづみ)

OD錠とダイセルの添加剤をご紹介します

ご挨拶
読者の皆さま、こんにちは。
この4月にCPIカンパニーは、従来のキラル分離事業に加え、無針注射デバイス「アクトランザラボ®」と、OD錠用添加剤「グランフィラーD®」、「ハイソラッド®」といった製品を取り扱う社内の医療・医薬関連事業部署と統合され、新組織としてスタートしました。
かくいう今月のキラきら情報通信執筆担当者(熊本)も、OD錠用添加剤の営業が主な業務でして、今回はCPIのトピックではなく、OD錠の基礎とダイセル製品のOD錠用添加剤をご案内いたします。

じゃばら

OD錠とは
OD錠とは、“Oral Disintegrating”の頭文字を取った略称です。日本では口腔内崩壊錠とも呼ばれ、その名の通り、口の中で速やかに崩壊する特殊な剤形を意味します。OD錠は、胃の中で溶ける通常の剤形と比べ、「利便性」と「安全性」が高いと言われています。通常のお薬は、そのまま服用すると口の中や喉の奥に張り付くこともあり、水と一緒に服用する必要があります。一方、OD錠は唾液程度の少量の水分で簡単に崩れるため、水と一緒に服用する必要がありません。水が手元にない場合や外出時など、シチュエーションを選ばずにサっとお薬を服用できる利便性があります。

じゃばら

また、口の中ですぐに崩壊するため、飲み込みやすく誤嚥(飲食物や唾液が食道ではなく気道に入ってしまう現象)のリスクが低いとされています。
OD錠は、嚥下機能の低い高齢者の方向けや水分の摂取が制限されている患者様向けの剤形として普及しています。日本国内では医療用内服薬の中で、OD錠の占める売上額は約一割と世界で最も高く、OD錠という剤形が普及している国です。処方薬に限らずOTC医薬品※1としても、様々な種類が販売されています。

※1 OTC……Over The Counterドラッグストアで販売されている薬のこと。カウンター越しに購入できることに由来します。

いろんなOD錠
筆者には、ドラッグストアに行くと「OD錠あるかな……?」とつい確認してしまう癖があります。お店で出会えるOD錠をご紹介させてください。
「ピシャット®(大幸薬品株式会社)」下痢止め薬のOD錠です。水無しでの服用が可能なので、とっさに水を取り出せない状況……例えば満員電車や重要な会議などで急な腹痛に襲われた時でも薬をさっと服用をすることができます。ポーチやポケットに入れて携帯しておけば、お腹が緩い人にとってお守り代わりになります。
また、乗り物酔いの予防・緩和薬である「センパア®(大正製薬株式会社)」には、噛んで服用するチュアブル錠やドリンクタイプなど、薬の形のバリエーションが豊富ですが、シリーズの一つとしてOD錠タイプ「センパア・QT」があります。薬の成分は同じでも、誰が飲むか、どんな状況で飲むのかによって、薬のちょうどよい形は変わります。薬を飲む人が一番飲みやすい剤形を選べることが理想的ですよね。OD錠は飲みやすい薬の形の一つの選択肢なのです。

グランフィラーD®、ハイソラッド®って?

じゃばら

ダイセルでは、OD錠の原料である添加剤として、「グランフィラーD®」、「ハイソラッド®」という製品を取り扱っています。OD錠には、口の中で素早く崩れる機能と、口の中に入れる前までには取り扱いやすいよう十分な硬さが求められます。「グランフィラーD®」、「ハイソラッド®」は、この相反する機能が両立できるように機能を持たせた添加剤です。ダイセルのコプロセス添加剤※2に、イブプロフェンやアセトアミノフェンといった有効成分や他の添加剤を加えて混合し、その混合物をタブレットに成形することでOD錠が製造できます。
こちらのウェブページにて「グランフィラーD®」、「ハイソラッド®」の概要をご紹介していますのでご覧ください。
また、ダイセルの若手研究員によるOD錠の説明動画をYoutubeにアップしています。実際にOD錠が崩壊する様子や、錠剤が崩壊する仕組みを研究員たちが解説しています。こちらも併せてご視聴下さい!

※2 コプロセス添加剤……複数の種類の原料をあらかじめ混合・加工して機能性を向上させた添加剤のこと。

OD錠と私
本メールマガジンをご覧いただき、ありがとうございます。今月号担当の熊本です。今回は特別にキラルではない話題をご紹介いたしました。
実はわたくし、OD錠用賦形剤を取り扱っているものの、薬を飲むような病気にはほとんどかかりません。OD錠にありつくにはドラッグストアにお出かけするしかないのですが、そもそも健康体なのに不必要な薬を購入するのもいかがなものか…?という疑問が購入直前に沸き起こり、新製品が出ても「お!出たな!」とチェックするだけに留まってしまう場合が多いです。無念。いつかダイセル製品が採用された某製品を処方され、どうどうとOD錠が服用できる日を夢見ています。……まあしかし、健康が一番ですよね!

新規投与デバイス「アクトランザTMラボ」は
針がないのに注射器?
(CPIカンパニー ライフサイエンス製品営業部 主任部員 中田 裕子)

手軽な操作でin vivo細胞内までデリバリー!

動物実験用 無針投与デバイス 「アクトランザラボ」は、
本当に針を用いることなく、薬液を特定の組織内に高速ジェット流で送達するジェットインジェクターです。
ぜひ、↓紹介動画を見ていただきたく。

じゃばら

【特長】
■無針投与デバイス
■生体高分子をワンアクションで細胞核内まで導入
■小型、軽量で手軽な操作

【用途】
■マウス・ラットなどへの皮内デリバリーを中心としたIn Vivoでの細胞内薬剤導入
例:DNA免疫、各組織への薬剤導入

動物モデルを用いた研究では、従来の針を用いた注射器と比較して極めて薄い組織である皮膚も標的にできるなど送達場所の正確さに加えて、遺伝子発現の増強効果が報告されています。
皮膚内には筋肉内に比べ免疫担当細胞が多くいることから、ワクチンの効率を高めることが期待できます。

ご興味を持っていただけましたら、まずはお問合せください。
メール:chiral@jp.daicel.com

ご参考:弊社プレスリリースリンク (2022年6月14日 リリース):
https://www.daicel.com/news/assets/pdf/20220614.pdf